培養肉研究ができる日本の研究室

竹内昌治 教授 東京大学 大学院 情報理工学系研究科/生産技術研究所

研究室HP http://www.hybrid.t.u-tokyo.ac.jp/
エリア 東京都文京区・目黒区

研究内容
「培養ステーキ肉」の作成をメインで行っています。

従来ミンチ肉のような培養肉は示されていますが、「ステーキ肉」のような分厚い組織を作ることは困難でした。なぜなら、従来の培養肉には血管がないため、分厚くすると内部へ酸素や栄養を供給できず、細胞が死んでしまうからです。さらに、本物の肉のような「線維」を持ち、かつ「収縮可能」な組織を作るのは難しかったのです。

そのような中、竹内研究室では日清との共同研究を通じ、これまで培ってきた三次元組織構築技術を駆使して、世界に先んじて線維を持った、収縮運動する培養ステーキ肉の開発を行うことを目指しています。

そして、すでに、筋芽細胞を混合したゲルシートを「積層」することで、「線維構造」を持ち、電気刺激に応じて収縮運動をする「培養サイコロステーキ肉」を実現に世界で初めて成功しました。(Fruhashi et al., 2021)(https://www.nature.com/articles/s41538-021-00090-7 )。これにより、肉本来の食感を再現した美味しい培養肉が実現できると考えられています。また、電気刺激での収縮運動生から工学への応用、さらには生体モデルとしての医学分野での応用も期待されています。

同研究室の培養肉研究に関わる特集は(http://www.hybrid.t.u-tokyo.ac.jp/culturedmeat/ )にもまとまっています。また、竹内教授は多様な大学、企業が参加するオールジャパンの培養肉の研究プロジェクトであるJST「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」(https://www.jst.go.jp/mirai/jp/program/sustainable/JPMJMI20C1.html )の研究開発代表者でもあります。

作り方 筋肉の元となる筋芽細胞を混合したゲルシートを積層することでサイコロステーキ肉を作ります。ゲルシートのの溝は筋芽細胞が融合してステーキらしい線維構造を作るのに役立ちます。(Fruhashi et al., 2021)

実際に作られた培養サイコロステーキ肉。スケールバーは1cm。(Fruhashi et al., 2021)

東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 清水達也 教授

研究室HP http://www.twmu.ac.jp/univ/graduate/medical/field/detail.php?id=06003
エリア 東京都新宿区

研究内容
藻類等を用いた細胞の培養システムの開発と、「細胞シート工学」を利用した培養肉開発を行っています。

培養肉を作るためには肉の元となる細胞を「培養液」を用いて培養する必要があります。しかし、この培養液が高価なため培養肉のコストが高くなることが課題でした。また、培養液の製造は環境負荷が高いことが課題であるとされていました。

そのような中、清水研究室では光と水で生育する「藻類」の抽出液と動物細胞の分泌物からできた培養液を用いることで、低コスト・低環境負荷の培養システムの開発を目指してます。すでに、複数の藻類から動物細胞の培養に必要な基本的な栄養素であるグルコース、アミノ酸、ビタミンが抽出可能であることなどを明らかにしています。(Okamoto et al., 2019)(https://aiche.onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/btpr.2941)

また、特殊な培養皿を用いることで、細胞を単層または数層のシート状にして回収する独自の「細胞シート工学」を用いることで、ハムのような培養肉を実現しています。

他にも、藻類の層と筋芽細胞シートを交互に積層することでお互いの代謝物をリサイクルし、「光」で培養肉を構築できる可能性(Haraguchi et al., 2017) (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5282507/ )を示しています。このプロジェクトはJAXAの宇宙での食糧生産のプロジェクトにも採択されており、宇宙食を輸送する時莫大なコストがかかる課題の解決策になりうるため、地球外の食料生産技術の一つとして期待されています。
細胞シート工学によって作られた筋肉の細胞のシートを重ねることで作られたハム様の培養肉。

細胞シート工学で作った肉のシートと藻類のシートを積層した状態で光を与えると、お互いの代謝物(酸素、二酸化炭素、アンモニア)がリサイクルされ、光だけでお肉を作ることができる。これは光エネルギーがメインの宇宙空間で、食糧生産技術として使える可能性がある。

大阪大学 大学院 工学研究科 松崎典弥 教授

研究室HP http://www.chem.eng.osaka-u.ac.jp/~matsusaki-lab/
エリア 大阪府吹田市

研究内容
3Dプリンティング技術を用いて、本来の肉同様の複雑な構造を持った培養肉の開発を行っています。本技術は「サシ入り和牛培養肉」の形成にもつながる技術です。

これまで報告されている培養肉のほとんどはミンチ状の肉であり、肉本来の複雑な組織構造(筋肉、血管、脂肪の混合体)を再現することは困難でした。

そのような中、松崎研究室では「筋・脂肪・血管」という異なる線維組織を 3Dプリントで作製し、その後各ファイバーを融合させて組み立てることで培養肉を構築する技術を開発しました(Dong-Hee et al., 2021)(https://www.nature.com/articles/s41467-021-25236-9 )。これで作られた培養肉はどこから切っても「筋・脂肪・血管」の構造を有する断面になり、また各ファイバーを組み立てて培養肉を作る工程がまるで金太郎飴の製造工程のようなので、この技術は「3D プリント金太郎飴技術」と呼ばれています。 本技術によって肉の複雑な組織構造をテーラーメードで構築できるようになりました。

この技術を用いれば「サシ入り和牛培養肉」などを生産できるほか、各線維組織の位置、成分比、および量を調節できるため、培養肉の特徴である「食のデザイン可能性」を広げることが期待されます。

3Dプリンティングで「筋・脂肪・血管」の線維を作る。作成した線維を取り出して、組み立てることで培養肉を作る。(Dong-Hee et al., 2021)

(左)作られた培養肉の断面図。赤色は筋肉と血管の線維で白色は脂肪の線維 (右)脂肪のサシのような構造も作ることができる(Dong-Hee et al., 2021)。

順天堂大学 大学院 医学研究科 赤澤智宏 教授

研究室HP https://www.juntendo.ac.jp/news/20211001-03.html
エリア 東京都文京区

研究内容 再生医療分野で培った幹細胞培養技術を用いて、筋オルガノイドの作製を試みています。

培養肉の生産には起点となる細胞が必要であり、中でも増殖する機能の高い「組織幹細胞」の分離が肝となります。 赤澤 智宏教授の研究グループでは、以前より組織幹細胞の分離や細胞の特性の解析に取り組んできたノウハウを活かし、ウシの筋肉から幹細胞としての性質が強い細胞を単離して、培養肉の元となる「肉芽」の作製に成功しました。

具体的には、ウシの筋肉由来の細胞を200種類超の細胞表面抗体でスクリーニングすることで、幹細胞性の高い培養肉のもと「肉芽」として適した細胞を探し出しました。その中でCD29という細胞表面マーカー陽性の細胞を見出し、この細胞を用いてスフェロイド(細胞の集合体)を構築し、筋肉成分と脂肪顆粒を含む直径500 μmほど肉芽を形成しました。さらに多数の肉芽をコラーゲンゲルに包埋し培養することで、肉芽どうしを融合させた均一な構造物を作製することに成功しました。

3Dプリンティング等を使わずとも、一つの細胞塊から筋肉と脂肪入りの立体組織が構築できるという点で非常に画期的な成果であり、今後の実用化に向けた大量培養技術の確立が期待されます。

弘前大学 人文社会科学部 日比野 愛子 准教授

研究室HP https://www.jst.go.jp/ristex/rinca/projects/jpmjrx21j5.html
エリア 青森県弘前市

研究内容 培養肉の社会受容性について、消費者意識調査を行っています。

培養肉をはじめとする細胞農業は、動物福祉や環境保護、持続可能な食料生産への貢献が期待される技術であり、各国で盛んな研究開発が行われています。 一方で、これまでにない食の生産体系であることから、従来のフードシステムに大きな変革をもたらすことが予想され、ELSI(Ethical, Legal and Social Issues:倫理的、法的、社会的課題)の検討が急務となっています。 日比野 愛子 准教授の研究グループでは、新しい技術と社会とのスムーズな接合をはかるべく、生活者や産業の特性を理解し、技術と社会が調和する新たなシステムを提起することを試みています。単純な「消費者の受容」にとどまらず、技術を受け止める文化・社会への影響を調査するとともに、細胞農業の研究開発グループと共同で、肉とは何か、良いコミュニケーションとは何かの意見交換を重ねながら、RRI(Responsible Research & Innovation:責任ある研究・イノベーション)の実践に取り組んでいます。

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