精密発酵に関わる認知度、試食意欲および最適な呼称の調査

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文責 日本細胞農業協会 アナリスト 西川優嗣
最終更新 2024年10月15日 

はじめに

 この度日本細胞農業協会は細胞農業の一分野である精密発酵に関する認知度、試食意欲の調査、および受容度を高める呼称の検討行ったためその成果を報告いたします。次世代の代替タンパク質として近年注目が高まる精密発酵についてみなさまの理解の一助となれば幸いです。本ページでは結果の概略を示し、詳細な結果は最後のGoogle drive リンクよりダウンロードいただけます。

精密発酵とは

 精密発酵とは、遺伝子工学を用いて、微生物からタンパク質等の特定の食品素材分子を高い精度で生産する技術を指します。代替タンパク質の一カテゴリとして挙げられることも多いですが。精密発酵は低環境負荷で動物倫理・福祉を尊重していることや、将来的な人口増加に伴う世界的なタンパク質不足を解消するための一手段として期待されています。米国やシンガポールでは既に精密発酵を用いた製品が上市されています。

日本細胞農業協会について

 本細胞農業協会は、細胞によるモノづくり”細胞農業”が、 社会普及することをミッションに掲げて活動を行なう非営利団体です。日本最大級の細胞農業に関する学術集会「細胞農業会議」の開催を始め、細胞性食品・精密発酵に関するセミナー開催、会員様への細胞農業レポート発信、消費者意識調査など、産学から消費者まで様々な対象に向けた活動を行っています。

調査概要

目的:①日本における精密発酵の認知度を明らかにする
②精密発酵食品の試食意欲を明らかにする  
③精密発酵食品を指す呼称のうち、受容度を高め得る呼称を考察する 

実施日:2024年2月27日~2月28日
対象:全国に住む18歳以上の男女1000人
手法:オンラインアンケート
アンケートツール:Freeasy

結果概要

〈精密発酵の認知度について〉
・「精密発酵」という単語の知名度は15%

 ・ウェブサイトとXを通じて精密発酵を知った回答者の割合が高い
ことが明らかになりました。 

〈精密発酵食品の試食意欲について〉
・「精密発酵で作られたミルク」の試飲意欲は36.6% でした。

・「精密発酵で作られたミルク」を試してみたい理由の上位3つは、「健康的そう」、「新しい技術が用いられた食品を試してみたい」、「環境負荷が低い」でした。 

 ・「精密発酵で作られたミルク」を試してみたくない理由の上位3つは、「安全性について心配」、「人工的だと思う」、「味が美味しくなさそう」でした。

〈精密発酵食品の呼称から連想されるイメージについて〉
「精密発酵で作られたミルク」を指す呼称候補を8つ用意し、連想されるイメージを選択してもらいました(以下参照)。

呼称候補
・培養ミルク
・培養牛乳
・精密発酵ミルク
・精密発酵牛乳
・アニマルフリーミルク
・クリーンミルク
・酵母牛乳
・イーストミルク

イメージ候補
・人工
・気持ちが悪い
・値段が高い
・健康的
・安全
・環境にやさしい
・おいしい
・栄養豊富

その結果、

・「培養ミルク」、「培養牛乳」、「精密発酵ミルク」、「精密発酵牛乳」は「人工」と連想されやすい
・「培養牛乳」、「培養ミルク」、並びに「クリーンミルク」は「気持ち悪い」イメージを持たれやすい
・「精密発酵牛乳」と「精密発酵ミルク」は「値段が高い」と連想されやすい
・「酵母牛乳」は「健康的」や「栄養豊富」というイメージを持たれやすい
・「クリーンミルク」は「安全」や「環境にやさしい」と連想されやすい
ことが明らかになりました。

 総合的に判断し、ポジティブなイメージの連想させやすさ、ネガティブなイメージの排除しやすさから、受容度を高める最適な呼称は、今回用意した候補の限りでは、「酵母牛乳」であることが示唆されました。


調査の限界と展望
本調査において、呼称候補並びにイメージ候補の選択肢は、調査メンバーによって用意されました。そのため、選択肢の恣意性により調査結果に制限が生じています。また、2024年6月に内閣府が策定した「バイオエコノミー戦略」では、既に「精密発酵技術」という文言が盛り込まれている中、プレシジョン発酵などの呼称も存在しているため正式な呼称がどのようになるかは未知数です。
本調査については、消費者の受容度を最大化させ得る呼称についての考察の一つとして、参考にしていただけますと幸いです。
弊協会は、これからも精密発酵の概念の浸透や精密発酵製品の普及のため、定期的に消費者需要調査を実施していく所存です。ぜひご関心をお寄せください。

謝辞
本レポートの作成にあたり、適切な助言を賜り、また丁寧に指導して下さった、弘前大学人文社会科学部 日比野愛子教授に感謝致します。また共著者で弊協会において精密発酵プロジェクトに携わる、理事の岡田健成さん、アソシエイトの小畑夏音さんには、調査のあり方や考察の方法など、細部にわたるご指導をいただきましたこと、ここに感謝致します。そして、本研究の趣旨を理解し快く協力して頂いた、弊協会および調査対象者の皆様にも心から感謝いたします。

データ・詳細など
詳しい調査手法及び結果については、フォルダにて公開しております。

連絡先
本調査についてのお問い合わせは office at cellagri.org にお願いします。(at は@ で書き換えください)

免責事項
本報告によって生じたいかなる損害、訴訟などにおいて当協会は一切の責任を負いません。