世界で唯一培養肉が手に入る小売店、シンガポールの「Huber’s Butchery」に行ってきました!培養肉の原材料の観点から考察した、味と食感のレポートをお届けします!
写真1 Huber’s Butchery 正面入口
Huber’s Butcheryについて
Huber’s Butchery 公式HP
場所
22 Dempsey Rd, Singapore 249679
(マリーナ・ベイサンズよりタクシーで20分、バスで30分ほど)
営業時間
月曜から日曜、9時30分から19時まで(年始、クリスマスに休業あり)
主な取扱商品
精肉(牛、豚、鶏、羊、兎など)、加工肉製品(ハム、ソーセージなど)、卵、乳製品、パスタ、ワイン
シンガポール植物園近辺の高級住宅地の中にひっそりと佇む精肉店、Huber’s Butchery。大きな赤の縦看板とウシのオブジェが目印だ。入ってすぐ横のエスカレーターで2階にあがると店内に通じる自動ドアがある。2階はチーズやハム・ソーセージなどの乳肉製品がメインで、培養肉があるのは1階だ。エレベーターを降り、店の中を進んで一番奥の冷凍ショーケースにお目当てのGOOD Meat 3がある。
写真2 1階の精肉カウンター(左)とその左奥にある冷凍棚に向かう通路(右)
写真3 GOOD Meat 3 が並ぶ冷凍庫(左・中)とラック(右)
GOOD Meat 3とは
培養肉のパイオニア企業、GOOD Meat社が販売するGOOD Meat 3は、植物ベースのハイブリット培養肉(培養肉含量3%)だ。2024年5月16日よりHuber’s Buthchery にて販売が開始されている。同社HPによれば、事前に行った官能評価試験において、味覚、食感、外観などの指標について非常に優れたフィードバックが得られ、従来の鶏肉と同じ味や食感を維持している、という。これは、GOOD Meatの特許取得済みの製造工程と、シンプルな原材料(植物性タンパク質、培養鶏肉、調味料)が可能にしている、と説明している。
参考:公式HP
写真4 目を引く赤色の真空パッケージ
栄養成分表示がない!?
気になる栄養成分だが、パッケージには記載がなかった。シンガポールでは、培養肉は「Novel Food(過去20年以上にわたってヒトが食した履歴のない食品および食品原材料)」に分類される。Novel Food の食品表示規定によれば、Novel Foodも他の食品と同様、シンガポール食品庁(以降SFA)の表示基準を満たさなければならない。
表2に、シンガポールにおいて栄養成分表示義務の対象となる食品区分を示している。GOOD Meat 3は真空包装されているため、Pre-packed Foodに分類されるだろう。そして特定用途食品などには相当しないため、栄養成分を表示する義務はないと考えられる。
参考:Labelling Requirements For Food (SFA) ,A Guide to Food Labeling (SFA)
なお、GOOD Meatが米国ワシントンD.Cのレストラン「China Chilcano」にて提供する培養チキンに関しては、栄養成分が公開され、従来の食肉と栄養価は同じと説明されている。培養鶏肉が原材料の一番はじめに並んでいることから、GOOD Meat 3よりも培養細胞の含量が高いと思われる。興味がある方は、ぜひご覧いただきたい。
消費期限・調理方法について
以下、パッケージに記載されている消費期限・調理方法だ。
消費期限
冷凍の場合:約1年と2ヶ月(注:筆者購入日より計算。購入以前の陳列時間を含めていないため、これより長くなると思われる)
一度解凍した場合:2日以内
調理方法
解凍後、中心温度が75度になるまで十分に加熱。(筆者解説:SFAは、有害微生物を除去するための生鮮食品の推奨加熱温度を75℃以上と定めているため、GOOD Meat 3は生鮮食品と同様の調理方法が推奨されているといえる。)
推奨加熱方法
フライパンにのせ、高熱で黄金色に焼き目がつくまで加熱。
いざ開封! 電子レンジで加熱してみる
見た目(加熱前)は、色は茹でた鶏むね肉、質感はゆでた鶏もも肉に近い。5 cm程度の割き身が10〜15つ程度入っていて、一人前の鶏料理であるならば2食分と言った分量だろうか。
あいにく今回滞在したホテルにはキッチンがなかったため、近くのセブンイレブンでお弁当を購入するついでに電子レンジを使わせてもらった。丁度良い加熱時間が分からなかったため、大まかに1分加熱した(ワット数はレンジに記載されておらず、後に調べたところ1700Wと判明)。
写真5 加熱前(左)と加熱後(右)
加熱前後で、表面の色が肌色から黄金色へと変化したのがお分かりいただけるだろう。少し加熱しすぎたせいもあるが、加熱後は表面がパリッと乾燥し、全体的に縮んだ。
気になるお味と食感は・・・? 原材料の寄与を考える
簡単に表現すれば、植物油で味付けされた湯葉のような風味がした。主な原材料である大豆タンパク凝縮物と、2種類の植物オイルの寄与率が大きいのだろう(表3)。料理に用いられる素材という前提なのだろうか、スパイスやハーブの香りはそれほど強くなく、GOOD Meat 3はそれ単体では淡白な味わいだった。チキンのうまみは、含量が低いこともあってか、残念ながら感じられなかった。
食感は弾力の強く、硬めな鶏もも肉のようであった。弾力は、主原料である小麦たんぱくの機能だろう(表3)。ただし、鶏肉特有の繊維までは感じられなかった。そこで、GOOD Meat 3 の構造特性を明らかにするべく、サラダチキン(ムネ肉)を購入してきて、並べて比較してみた。
写真のとおり、サラダチキンは、端から端まで通った繊維がまとまった構造をしているのに対し、GOOD Meat 3は、数枚のシートを積層したつくりになっている。そのため、シート伸ばしながら噛み切るのは難しかった。
写真6 GOOD Meat 3 を広げてみる
写真7 GOOD Meat 3 を切ってみる
以下、パッケージ記載の原材料を載せる。
GOOD Meat 3 でアレンジメニュー!
先ほども述べた通り、そのまま食べるのでは淡白で飽きがきてしまうので、素材の味を感じることができつつ、現地で簡単にできるメニューをいくつか実践してみた。
GOOD Meat チキンサラダ
ヘルシーで彩りも良い一品。既存の畜産物を一切使用していないため、ビーガンやベジタリアンにも需要があるかもしれない。レタスのシャキシャキ感とGOOD Meat 3の弾力性がよくマッチしている。
写真8 宿泊先の朝食として栄養補給
GOOD Meat チキンライス
シンガポールの目玉グルメといえばチキンライス。屋台のお兄さんにチキンなしのチキンライスを特別に用意してもらった。チキンライスの上に豪快にGOOD Meat 3をのせる。鶏ダシで炊いたご飯と食べる培養肉は、一瞬本物の鶏肉を思わせる。
写真9 屋台で食べるチキンライス
最後に:今後の期待ポイント
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価格
現在GOOD Meat 3の値段は、100g当たり670円である。コンビニのサラダチキンや、Huber’s Butcheryで販売されている鶏胸肉の、1.5〜2倍の価格だ。細胞の大量培養技術や無血清培地のコストダウンによって、商品価格の抑制を期待したい。 -
味・食感
筆者の所感としては、GOOD Meat 3の味には鶏肉の要素が少なかった。今回、もし視覚情報を遮断した状態で試食したならば、プラントベースの肉もどき、あるいは大豆肉と答えるだろう。まずは鶏肉特有のうまみが求められるが、これは精密発酵や培養脂肪などを複合することで部分的に解決できるだろう。そして食感については、繊維構造を取り入れることで、さらに鶏肉に近い食感を期待したい。このように、味と食感の2点において、より本物に近い培養肉が小売店で利用できることを期待している。
以上、シンガポールからGOOD Meat 3の試食レポートでした!